若林理央の書評

フリーライターの若林理央です。新刊を中心とした書評をしたためるブログです。エッセイはこちらから→note.mu/wakario

若林理央 ポートフォリオ【これまでの執筆記事】

 

都内在住のフリーライター 若林理央です。

 

現在の主な執筆媒体

WEB 70seeds、LabBase、AM、UMU、CRAZY STUDY

紙媒体 月刊留学生

(CRAZY STUDYは「わかりお」、月刊留学生は「梶川理央」名義)

取材記事(企業取材含む)、エッセイ、書評を中心に執筆。

2019年3月まで、新規媒体からのご依頼は、取材記事(在留外国人もしくは書籍関係)、書評、映画評、エッセイのみ受け付けております。

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rio.wakabayashi429@gmail.com

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経歴及び過去の執筆記事は下記ご参照ください。

 

 

 

 

 <ライター経歴>

2012年~紙媒体を中心に執筆開始。

現在はWEB媒体に移行し、各メディアの企画・取材・ディレクションにも携わりながら活動中。

 

ポートフォリオ

「次の70年になにを残す?」Webメディア 70seeds

 

【2019年12月スマートニュースに掲載されました】

www.70seeds.jp

 

【2019年9月スマートニュースに掲載されました】

www.70seeds.jp

 

未来と共に育むメディア UMU

 【NEW】2020年1.24公開

umumedia.jp

 

umumedia.j

umumedia.jp

 

理系学生向け就活メディア LabBase

【NEW(2020.1.8公開)】

compass.labbase.jp

 

 【NEW(2020.1.8公開)】

compass.labbase.jp

 

compass.labbase.jp

 

 

compass.labbase.jp


 

compass.labbase.jp

恋に迷う女性のためのメディア AM

 

am-our.com

 

頭髪を通じてライフスタイルを豊かにするためのメディア 髪コト頭髪を通じてライフスタイルを豊かにするための情報を発信

 

kamikoto.media

 

おもしろ系メディア CRAZY STUDY

crazystudy.info

 

crazystudy.info


・最新の日本を紹介するマガジン 月刊留学生(紙媒体)

 

韓国文化院 院長インタビュー

「生まれ変わった韓国文化院」

 
ハリウッド大学院大学 教授・助教授インタビュー
ハリウッド大学院大学の魅力とは?」
 
行政書士 インタビュー
「日本で行政書士として活躍中の元留学生」

 

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※メディア以外の執筆

 

エッセイ

note.mu

 

書評

www.wakariowriter.work

 

※記事の執筆依頼

2019年3月までは、取材記事(在留外国人もしくは書籍関係)、書評、映画評、エッセイのご依頼のみ受け付けております。

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 ※随時ポートフォリオを追加していきます。

 

<その他経歴> 

大阪生まれ大阪育ち。都内(23区内)在住。

神戸女学院大学文学部卒業。

幼少期に両親の離婚・母の再婚、阪神大震災場面緘黙症などを経験し、その経験をもとに10代からエッセイや小説の執筆をはじめる。

学生時代はフランス文学と日本文学を比較。ご当地アイドルだったこともある。

大学卒業後、家電メーカーで役員秘書として勤務した後上京し、結婚するが二年で離婚。

日本語教師イベントコンパニオン、ナレーター/MCをしながら2013年よりライターとしても活動を開始。

2018年、シェアハウスで知り合った5歳年下の現夫と再婚。

現在はライターと編集者、日本語教師をしている。

趣味は読書、熊の生態研究、ミュージカル鑑賞など。

 

 

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町の小さな本屋の可能性 『13坪の本屋の奇跡』木村元彦

 

本屋が町にあふれたら。

とりとめもなく、そんな想像をすることがある。

「好きなジャンルの本は、あの本屋に行けば、最適なものが見つかる」

「今自分に必要な本がわからなければ、本屋さんに相談しよう。ぴったりのものを見つけてくれる」

町の人たちはみんなそう認識し、本屋のレジの前で列を作る。町の子どもたちも、いっしょに列に並んでいる。

「これな、あの本屋さんが選んでくれた本やねん」

あとで友だちに会ったら、子どもたちは自慢するのだ。

 

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 「生活空間である町のインフラとしての本屋」

『13坪の本屋の奇跡』で、著者木村元彦は私が憧れる本屋のことを、そう表現していた。

それが現在の日本で実現しないのは、なぜなのか。

ランク配本、見計らい配本という独自の配本システムや無料配送するインターネット書店増税…若者の本離れ以前に、問題が山積みなのだ。

総務省によると、1991年には全国で7万6915店舗あった本屋は、2014年、3万7817店舗になった。半減している。著者も、『13坪の本屋の奇跡』で「図書カードリーダーのある店が10年前の4分の一」と記していた。

 

まず、配本システムとは何なのか、確認したい。

 

 ランク配本の「ランク」とは、本屋の「ランク」のことである。

 

木村元彦『13坪の本屋の奇跡』では、大阪にある13坪の本屋、隆祥館書店にスポットをあてる。現在の代表取締役、二村知子さんが理不尽なランク配本に直面したのは、1999年のことだった。

当時、日本で大ブームを巻き起こした「動物占い」シリーズ発売時だ。

 

大規模書店では、店のいちばん目立つ場所に「動物占い」シリーズが山積みされていた。しかし、13坪の本屋「隆祥館書店」には、数冊しか入ってこなかった。

お客さんたちは、当然「動物占い」シリーズがないことに驚く。

隆祥館書店の代表である二村知子さんは、取次に連絡を取り、異議をとなえた。

 

出版社→取次(トーハンなど)→本屋というルートで、本は送られてくる。

取次は、本屋をランクで分ける。大規模書店には話題になっている本や新刊を多数入れる。しかし、小規模書店にはわずかしか入ってこない。

 

二村さんは取次に対し、欲しい本をお客さんに買ってもらうため、「もっと動物占いの本を入れてください」と説得した。しかし、取次は、「ランク配本なので、無理です」と応じなかった。

二村さんは、取次の社員がひんぱんに隆祥館書店に顔を出し、注文を聞いてくれていることや、納品のために必死で段取りを組んでいることを知っている。

問題視するべきなのは、取次の社員ではなく、長年受け継がれていた配本システムの構造なのだと、二村さんは実感した。

それは、前代表の二村さんの父が、取次業界に対し声を上げ続けていたことでもあった。

 

二村さんは努力の末、出版社の販売担当者にコンタクトをとり、この件を伝えた。

すると返ってきたのは、「弊社の本が、求めている書店さんに届いていないなんて」という謝罪の言葉だった。

 「動かないと何も始まらない」

二村さんの、その後の道しるべともなる出来事だった。

 

 

『13坪の本屋の奇跡』にも書かれているように、町の本屋が苦境に追い込まれている配本システムはもう一つある。見計らい配本だ。

 

段ボールを開けると、頼んでもいない本が入っている。根拠なく特定の国を否定するヘイト本、何年も前に出て誰もが興味を失っている本…売りたくない本、売れない本であっても、書店はすぐに入金しなければならない。

 

2005年、ヘイト本ブームが巻き起こったとき、私は大阪府堺市の書店でアルバイトをする大学生だった。いくつかの本屋でヘイト本特集がされているのを見た。「この書店の経営者は、こういう思想の持主なのだな」と思った。

書店でアルバイトしていても、見計らい配本という言葉を聞いたことがなく、そんな誤解をしていた。経営のために、売りたくない本を置いている本屋もあることを、『13坪の本屋の奇跡』を読んで初めて知った。

 

この書評を書く前に、わたしは実際に隆祥館書店を訪れた。

 二村さんは毎週届くというトーハン(取次店)週報を開き、説明してくれた。週報には本の概要が掲載されていた。いくつかの本は赤いペンで囲ってある。隆祥館書店が注文して送ってもらっている本だと言う。

 

どうやって、隆祥館書店は置く本を選べるようになったのか詳細を知りたい。

そう言う私に対し、二村さんは口頭でわかりやすく説明してくれた。

「根拠のなく特定の国を批判するヘイト本を置きたくないと、取次の方の前で声をあげました。その後、隆祥館書店にはヘイト本が届かなくなりましたが、他の同じような規模の書店さんの話を聞くと、未だに見計らい配本でヘイト本が届いているようですね。

声をあげるかあげないか、それも重要なのですが、小規模書店は経営が常に苦しく、見計らい配本で届いた本を書店に置かざるをえないのです」

経営のための、苦渋の選択だ。

 

隆祥館書店も、存続のため、新たな試みをする必要があった。

二村さんは「著者を囲む会」を始めた。彼女がイベント開催にあたって心がけていたことが、『13坪の本屋の奇跡』で、木村元彦によって記されている。

(二村は)単なる客寄せのプロモーションイベントにしないことを心掛けた。(中略)薦められると思ったものはどんなに無名の作家のものでも根気良く紹介したし、逆にリクエストがあれば、(中略)面識が無くても直接手紙を書いて実現させた。

結果、「著者を囲む会」は、著者からも来場者からも好評を得た。現在、その回数は200回を超えている。

 

実際に二村さんにこのイベントが収益につながっているのか私は聞いてみた。二村さんは、来場者が30人集まれば、1人1冊、必ずその著者の本を買ってもらうことにしているそうだ。そうすれば、一晩でその本は30冊売れる。

 

それでも、経営に余裕があるとは言い難い。ふだんは本屋でお客さんにぴったりの本を薦め、レジを打ち、書店経営者としての役目を十分に果たしている二村さん。しかも隆祥館書店の定休日は少ない。

「著者を囲む会」で進行役を務めることの多い二村さんは、寝る間を削り、登壇する著者の本を消化しきるまで再読しているそうだ。

 

忙殺されていても、二村さんには知りたいことがあった。

「他の国の配本システムはどうなっているのか」

なんとか時間を捻出し、ヨーロッパへ向かった。

 

二村さんは、「ドイツの本屋はとても良いんですよ」と私に話してくれた。

ドイツでは、発売前の本のプルーフ(見本)を町の本屋の経営者たちが読み、自分の意志で置きたい本を選ぶそうだ。

ドイツの本屋は、すでに経営者が自ら本を選んでいるのである。

二村さんは、「日本もそうなれば良いのに」と言った。今の日本の本屋は、個性を持ちたくても、持てない。

どの本屋に行っても同じ本が並べられ、「それなら配送料も無料だし、インターネット書店で買おう」と、お客さんたちは本屋から離れていく。

 

ヨーロッパは日本と異なる動きを見せ続け、町の本屋の存続を国が支援している。

ドイツだけではない。

2014年、フランスで反アマゾン法が可決されたのも画期的だった。

 

ハフポストによると、反アマゾン法とは、アマゾンなどのオンライン書店が値引きした商品を、無料配送することを禁じる法律である。

フランスの町には、何百年も前からの国の文化が、今も残っている。建物の高さや色に制限があり、建築物の外観を重視する。文化を守るための努力を惜しまない。

町の本屋を守るために、国が動く姿からも、フランスらしさが表れている。

 

日本はどうしてドイツやフランスのようにならないのだろうか。

 本棚に並べられた中から、一冊を選ぶ。その楽しさを、配本システムやインターネット無料配送のせいで、利用者が味わえない。

自分にぴったりの本を勧めてくれる隆祥館書店のような本屋さんがあることも、ほとんどの人は知らない。

 

 

『13坪の本屋の奇跡』の中で、二村さんが指針にしている言葉が出てきた。

二村さんは、シンクロナイズドスイミングの元日本代表だった。当時のコーチは、メディアでも有名な井村雅代さんだ。

井村さんは、二村さんに「敵は己の妥協にあり」という言葉を教えた。

 

配本システム、増税による出版不況、店舗の規模による返金の時期の違い…小規模書店を追いつめていく様々な背景が本書では描かれているが、二村さんは、井村さんから学んだことに支えられ続けた。

2013年4月には、「井村雅代さんを囲む会」も実現した。『13坪の本屋の奇跡』に実際にイベントで行われた対話が収録されていて、井村さんの熱い想いを知ることができる。

『13坪の本屋の奇跡』で、個人的にいちばん好きな章だ。井村さんの話は、見事に二村さんの「今」に繋がっていると感じた。

 

隆祥館書店で二村さんから話を聞いた後、私は本をおすすめしてほしいとお願いした。

「今の目標や、こうなってほしいと思っていることはありますか?」

二村さんの質問に対し、私は答えた。

 「努力がださいと言う人もいるけど、私は努力する人が報われる世の中になってほしい。私は努力して、自分の夢を叶えたい」

私の言葉を聞いた二村さんは三つの書籍をおすすめしてくれた。

 

その中に、坂本敏夫さんが執筆した『典獄と934人のメロス』があった。

『13坪の本屋の奇跡』で、「初版6000部のこの小説」を二村さんが「ひとりで500部売り切った」と書かれていた。

内容は下記のとおりである。

関東大震災の際、囚人が逃走して罪を犯しているというフェイクニュースが出回った。実際は、全員が戻っていたという事実を、綿密な取材を重ね、「人間の「信」に焦点をあてた」大作である。(「」は『13坪の本屋の奇跡』より引用)

『13坪の本屋の奇跡』で知り、ライターの友人にも勧められていた本だった。探し回っていたが、隆祥館書店で初めて見つけた。二村さんは「外国人に日本語を教えている、若林さん(わたし)にとっても、おすすめの本ですよ」と紹介してくれた。

 

二村さんは緑が好きだと言う。隆祥館書店のブックカバーも、薄い緑だった。

二村さんは丁寧に折り目をつけ、私が買った3冊の本にブックカバーをつけてくれた。

本を愛しく想い、買ってくれるお客さんを大切にしていることがわかるブックカバーのつけ方だった。

 

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目の前にいる人は、間違いなく『13坪の本屋の奇跡』で、奇跡を作った人なのだ。レジの前で、ふつふつと実感がわいてきた。

 

いつか、町の本屋に列をなす、子どもたちの姿を見たい。丁寧にブックカバーをつけてもらい、笑顔で本屋から駆け出す子どもたちの姿。

『13坪の本屋の奇跡』

この本と隆祥館書店を、次はだれに薦めようかと思いながら、私は隆祥館書店のある谷町六丁目を後にした。

 

 

 

【候補作を全部読んでみた】どうなる2019年下半期の芥川賞 後編

 

【執筆/2020年1月5日】

 

第162回芥川賞候補作をすべて読んだ。

今回の候補作の著者に、出版業界に新たな風を吹き込む純文学作家はいるのだろうか。

後編では、乗代雄介「最高の任務」と古川真人「背高泡立草」の書評を書き、候補作5作を比較したうえで、受賞作を予想する。

 

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(作者名の五十音順、敬称略)

 

乗代雄介『最高の任務』(群像12月号)

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あらすじ

大学の卒業式後、「私」は家族旅行に連れ出される。両親も弟も、「私」に行き先を教えない。道中、彼女は亡くなった叔母とのハイキングを思い出す。

 

著者(乗代雄介)について

1986年生まれ。2015年、『十七八より』で第58回群像新人文学賞、2018年、『本物の読書家』で第40回野間文芸新人賞を受賞した。

 

心地よく主人公に憑依できる小説

著者の性別によって、小説の雰囲気は変わるという先入観を持っていた。

今回の芥川候補作もそうだ。木村・千葉・古川の小説は、作者を隠して読んでも男性が書いたものだとわかるし、高尾の小説は「女性の感性が表れている」と感じた。

 

私のそういった感想自体が時代錯誤であることを、乗代は『最高の任務』で示した。彼に、どうして青春期の女性の心情を丹念に描けるのか聞きたい。

 

自分の身に起こった出来事を、他人事のように受け止める主人公は大学を卒業したばかりの女性だ。就職先は決まっておらず、もともとは大学の卒業式にも出るつもりもなかった。

世間との折り合いをつけるのが苦手なタイプであることがわかる。

 電車で遭遇した痴漢に対しても、彼女は「隣人愛の視線を送った」。まるで他人事である。

 

そんな彼女の感覚が一変する出来事が、終盤に起こる。

 

読者は主人公の世界の中で心地よく泳ぐことができる。気づけば読者は、主人公に憑依している。性別も年齢も関係がない。

憑依した結果として、「最高の任務」が何かを知ったとき、読者は主人公と同じように心を揺さぶられるだろう。

 

芥川賞候補作として

間違いなく、芥川賞最有力候補だ。近年、大衆小説と純文学の境目があいまいになっている。もともと純文学は、娯楽性ではなく芸術性を重視している。『最高の任務』は、その「芸術性」と、現代小説に欠かせない「読みやすさ」を兼ねそろえている。

 

古川真人『背高泡立草』(すばる10月号)

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あらすじ

今や誰も使っていない納屋の草刈りに来た、親族。納屋周辺でいろいろな「もの」を見つける。「もの」の歴史、そして物語が紐解かれていく。

著者(古川真人)について

1988年生まれ。2016年、『縫わんばならん』で第48回新潮新人賞を受賞しデビュー。同作は第156回芥川賞候補にもなった。2017年、著作『四時過ぎの船』が三島由紀夫賞芥川賞両方にノミネートされ、2019年上半期、『ラッコの家』が再び芥川賞候補に。純文学系賞レースの常連である。

物語の広がりに気づけるかがポイント

「もの」から物語を紡ぎ出し、オムニバスのような仕上がりにしている。昔ながらの小説のフォーマットのようにも見えるが、意外に斬新な試みだと思う。

 

古川の著作の特徴は方言にある。古川自身も、芥川賞候補作に選ばれることを前提として執筆したはずだ。前作で、選考委員の数名が指摘していた方言の読みづらさは、ほぼ消えている。方言を用いることにより、読者は「舞台になっている納屋が都心ではなく、田舎にある」という実感がわく。

 

難点は、読み返さなければわからない点が多いことだ。

突然場面が切り替わり、時代背景や主人公が都度変化することによって、戸惑いを覚える読者もいるだろう。

最初に概要を読まなければ、それぞれの場面が納屋周辺の「もの」とつながっていることを意識しにくい。

 

逆に言えば難点はそれだけだった。構成力もあり、物語を締めくくるタイミングも心得ている。ベテラン作家に批評され続けた結果が表れているのだろう。

 

芥川賞候補作として

 

過去の古川の著作に対する芥川賞選考委員の講評を、ひととおり振り返ってみた。

 

目を奪われたのは、2017年上半期の、島田雅彦からの講評である。

「血縁関係の中にとどまらず、もっと空間的、時間的に大きな視野に立って、壮大な物語を紡いでもいいのではないか」

『背高泡立草』は、間違いなくこの島田の言葉を意識したうえで練られた物語だ。

 

講評を参考にしつつ小説を組み立てた古川が、芥川賞を受賞する可能性は高い。ただ、選考委員たちが古川の著作を読み慣れてしまったのも事実だ。

他の候補作より審査基準が自然と高くなることは避けられないだろう。

 

芥川賞ドリームは存在するのか

 

純文学小説が売れる時代はとうに終わった。大衆小説を審査する直木賞より辛い状況にあるのが、純文学小説を対象とした芥川賞である。

 

過去十年を振り返っても、実際に芥川賞受賞後、人気を博した作家は数えるほどしかいない。

それでも純文学作家は、わずかな可能性を求めて芥川賞を目指す。時には、自らの作風を犠牲にしても、選考委員の好みに合わせ小説を書く。

 

私の予想では、今回受賞するのは2作。

 

恐らく、乗代雄介「最高の任務」と古川真人「背高泡立草」である。候補作を全作読み、選考委員のこれまでの講評をざっと見返せば、予想できる結果だ。

 

ただ、純文学好きとしては、芥川賞によってチャンスを得て、将来的に出版業界を驚かせるほどの人気作を生み出す逸材が現れてほしい。名目としては、芥川賞は新人作家の著作に限定されているのだ。

 

この観点を採用すると、今までに著作が芥川賞候補作になったことのある作家は省きたい。

木村友祐「幼な子の聖戦」乗代雄介「最高の任務」のダブル受賞。芥川賞ドリームがあるなら、わたしはこの結果を期待している。

 

上記2作は、高尾・千葉の著作より、読み手を意識している。無駄のない構成は読みやすく、芥川賞の要である芸術性も感じられるのだ。

古川も完成度の高い小説を発表したが、ノミネートされるのが4回目となると、新鮮味に欠ける。

木村は2009年デビューで、新人と言えるのかは微妙なところだが、昨年山田詠美も評価したように実力者である。本作で芥川賞を受賞すれば、過去作品も注目され、人気作家への道を駆け上がる可能性は十分ある。

乗代の著作は、前述したように今回の候補作の中で飛びぬけている。芥川賞を受賞する確率は極めて高い。

 

1月15日の受賞作発表と選考委員の講評が、今から楽しみである。

 

 

 

【候補作を全部読んでみた】どうなる2019年下半期の芥川賞 前編

【執筆/2020年1月4日】

 

1月15日、第162回芥川賞受賞作が発表される。

 

私は無類の純文学好きなので、受賞作発表前に、初めて候補作全作を読むという試みをした。

芥川賞は賞レースだが、日本の出版業界の命運をにぎる純文学作家が見つかるかも知れない。期待しつつ読了し、書評をしたためた。

まず、現在(2020年1月時点)の芥川賞の概要は下記のとおりである。

 

 

 

 

 

  (作者名の五十音順、敬称略)

 

木村友祐『幼な子の聖戦』(すばる11月号収録)

 

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あらすじ

青森県の村。40代の冴えない主人公「おれ」は、村議をしている。時折会っていた人妻との関係に足をすくわれ、村の選挙戦に裏から関わることになる。

著者(木村友祐)について

1970年生まれ。2009年、『海猫ツリーハウス』で第33回すばる文学賞を受賞し、デビュー。その後、三島由紀夫賞、野間新人文学賞などで著書が候補作となるも、受賞には至らなかった。

2019年、第161回芥川賞候補となった古市憲寿『百の夜は跳ねて』で、参考文献として木村の著作『天空の絵描きたち』の名前があげられた。この件は物議をかもしたが、木村の小説が選考委員たちに読まれるきっかけになったとも言える。山田詠美は「(他の芥川賞)候補作よりはるかにおもしろい」と高く評価した。

木村友祐自身の著作が芥川賞候補に選ばれるのは、今回が初めてである。

 

大衆小説としても純文学としても読める

 

直木賞のほうがふさわしいのではないか、と第一印象では思い、序盤は「どこかで読んだことがある作風だ」と感じた。筆者の個性が発揮されるのは中盤以降だ。主人公の内面世界が、これでもかとえぐられる。

選挙に対する年配の人たちの意識や小さな村の閉塞感を表しているため、小説の時代設定は少し昔なのかと思っていた。これは誤解だった。「ツイッター」や「マウンティング」などの現代語が急に登場し、「勃起力」という新語まで出てくる。 

 

「幼な子のような無垢な心」「ペテンの意味ばっかの世界に、おらがとどめば刺してけらぁ」「伝説を作るのは、おれだ」

 

主人公は、アウトロー小説のような勇敢な言葉を心の中で放つ。並行して、筆者は客観的に、主人公の「しょうもなさ」を描く。

主人公の主観と周囲の状況とのズレ。その対比は非常にわかりやすく、筆者の意図したとおりに読者に伝わるだろう。

 

小説の中で、突然登場するのが、福島から来たと思わしき少女だ。少女の視線は、いつしか読者の視線になる。冷静に内容をたどっていたはずが、いつしか主人公の行動に驚きを隠せなくなるのだ。

ラストはよけいな部分をすべて排除し、無駄がない。

 

筆者は、主人公の内面を軸としつつも、日本の社会問題を意識している。選挙の公平性はもとより、外国人妻が税金を払っているのに選挙権がない点などにもあえて言及している。メッセージ性の強い小説でもあるのだ。

 

芥川賞候補作として

他の芥川賞候補作が、品良く、あくまで純文学の領域にとどまっている中、異彩を放っていた。『幼な子の聖戦』が暴力的とすら言える力強さで、読者を主人公の内面に引きずり込んだ点は、選考委員たちから高い評価を受けるのではないかと予想している。

 

高尾長良『音に聞く』(文藝春秋

 

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あらすじ

天才的な音楽の才能を持つ妹と、妹との才能の差を自覚している姉。姉妹がウィーンを訪れ、音楽理論を専門とする父と久しぶりに会ったことにより、不思議な愛憎劇が幕を開ける。

著者(高尾長良)について

1992年生まれ。2012年、『肉骨茶』で、史上最年少の新潮新人賞受賞者となる。2017年、京都大学医学部を卒業し、医師としての顔も持つようになった。

これまでに二度、著作が芥川賞候補作に選ばれている。ただ、選考委員からの評価は高いとは言えず、特に宮本輝は、2012年に「小説の序章を読んでいる感じ」、2014年に「人名にルビをつけないといけないものは小説と呼べない」と高尾の著作を酷評した。

2017年度の京都市芸術文化特別奨励者でもある。

 

18世紀小説を昔の作家が翻訳している印象

 

具体的に言うと、ヨーロッパの数百年前の小説を、戦前の作家が日本語に翻訳しているようだった。

 

登場人物たちも、ヨーロッパの貴族の言葉を日本語訳したような話し方をする。そもそも、この小説の中での会話はすべてドイツ語なのだろうか、それとも日本語のときもあるのだろうか。最後まではっきりしない。

 

現代人がふだん目にしない漢字を多用し、意味がすぐに理解できない言葉を頻出する。舞台がウィーンだからか、あえてドイツ語を書き、()内で日本語の意味を説明するのも現代小説では珍しいだろう。他の作家が持ちえない耽美的な作風の持ち主であることは確かだが、読み手を苦しませる小説だ。

 

高尾の著作は、もともと純文学を読みなれている読者からも「難しい。高尚すぎる」という感想が多い。それでも作風を変えないのは、芯があるからだとも言えるが、発表する時代を間違えているように思えてならなかった。

 

芥川賞候補作として

本人の問題ではないが、「若き才媛」「二十代女性作家」など、目にする紹介文が全て古めかしい。2003年、綿矢りさ金原ひとみ芥川賞を受賞したときのことを思い出した。

同じような話題性を狙っているのなら、受賞もありうるけれども、読者の純文学離れを加速化させる危険性をはらんでいる小説だ。選考委員(特に宮本輝山田詠美あたり)は厳しく評価するのではないだろうか。

 

千葉雅也『デッドライン』(新潮社)

 

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あらすじ

修士論文の締め切り(デッドライン)が迫る主人公。大学院で学びながらも、父親の事業の失敗や、自らのセクシャルと向き合い、日々を送る。

著者(千葉雅也)について

1978年生まれ。立命館大学大学院の先端総合学術研究科准教授。専門は哲学と表彰文化論。既刊の書籍は多々あるが、小説は本作がデビュー作となる。

 

序盤とラストは必要だったのだろうか

 

淡々とした文体は持ち味なのだろう。ただ、ひとつひとつの場面が短いので、早送りしてドラマを見ているような感覚になった。

 

主人公の状況を読者が把握する前に、物語が進んでいく。主人公の過剰な自意識に圧倒され、彼をどんな人物として認識すればいいのかわからなくなる箇所もあった。

 

唐突に入る大学院での講義内容は、筆者本人の実体験から得たものだろう。名言がたくさん出てくる。物語に立体感を出したいという狙いも感じられ、この作品が哲学書やビジネス書なら興味深い。

しかし、小説としてはどうか。講義内容に、いくつか伏線のようなものが出てきた。それを回収しきれないまま、終わってしまった感がある。筆者が何を伝えたかったのかも、同時にぼやける。

 

序盤もそうだが、ラストは明らかに蛇足である。無駄を省いた木村友祐『幼な子の聖戦』との違いが表れた。

 

出版社の概要では主人公のことを「ゲイ」と表現しているが、彼はバイセクシャルなのではないだろうか。個人のセクシャリティを特別なものとして扱うのも、十年前なら斬新だと感じただろう。2020年前後に発表する小説としては時代遅れだ。

 

芥川賞候補作として

研究者である筆者が小説を書く。何度も芥川賞候補に選ばれては受賞を逃している古市憲寿と似た傾向である。

研究者として出した著作は優れているのかも知れない。しかし、小説は今回が処女作ということもあり、他の候補作と比べると未熟な点が目立った。

 

 

 

 後編では、乗代雄介「最高の任務」、古川真人「背高泡立草」 の書評の後、全作品を比較、受賞作を予想する。

 

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紙媒体での執筆依頼も受け付けております。料金については下記を目安に、別途ご相談ください。

書評のご依頼は優先してお引き受けします

 

依頼される際は、rio.wakabayashi429@gmail.com

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現在、取材記事・コラム・書評記事に力を入れたいと考えているため、この三つに関しては通常より低価格で設定しております。

 

取材記事

取材・撮影・執筆  25,000円~

企画・取材・撮影・執筆・ディレクション 40,000円~

文字起こし(音源からご要望に応じたトーンの記事に仕上げます) 15,000円~

 

※すべて取材先のリサーチ・初稿提出後の修正(2回まで)を含んだ金額です。

※撮影にはミラーレスカメラを使用します。

※当方は都内在住ですが、遠方の取材も追加料金にて承ります。

 

記事(取材記事以外)

書評(小説・漫画) 8,000円~

書評(ビジネス書・専門書) 10,000円~

映画評 8,000円~

コラム 8,000円~

上記以外の記事(リサーチなし) 8,000円~

上記以外の記事(リサーチあり) 12,000円~

※リサーチ内容により変動します。理系・医療・ITなど専門性の高い分野でのリサーチが必要な記事については20,000円から承ります。

 

 

※ライティング以外では編集者、SNSマーケター、コンテンツディレクターの経験もあります。依頼される場合は別途お問い合わせください。

 

 

 

ほんわか、不条理、ミステリー…風味豊かなアンソロジー『患者の事情』

集英社のアンソロジー『患者の事情』の作者は、筒井康隆三島由紀夫北杜夫遠藤周作など堂々たる顔ぶれが並ぶ。病気や患者にまつわる短編小説集だ。

 

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山本文緒「彼女の冷蔵庫」

血のつながらない25歳の娘と35歳の継母。娘が骨折し入院したところから物語は始まる。二人の関係は冷ややかなものだったが、あることをきっかけに変化が訪れる。

娘の孤独感を理解できるのは恐らく主人公である継母だけだ。

きれいごとをあえて語るまいとする作者の表現の中に、読者はあたたかみを見出す。アンソロジーのはじまりにふさわしい一編。

 

筒井康隆「顔面崩壊」

 

読者は突如としてSFの世界に放り込まれる。前置きなく、聞き手である主人公はわけのわからない老人から、宇宙にある他の星の話をされる。一歩間違えば、顔面崩壊する恐れのある恐ろしい星。老人はどのように顔面が崩壊するかまでことこまかに、筆者に語る。

ラストで味わう不条理さは、筒井康隆の小説の特徴だ。

 

椎名誠「パンツをはいたウルトラマン

筒井ワールドとは、別の意味での不条理な世界が目の前に広がる。

副業でやっていた、ウルトラマンに扮するバイトで、衣装とお面がとれなくなってしまった主人公の物語。深刻なはずなのだが設定が設定なので、読者にとって主人公はユーモラスにうつる。

ラストにたどりついた後は、また最初から読み返してみるのをおすすめする。

 

北杜夫「買物」

精神疾患を扱った小説だが、世界観がどこかおかしい。読者が違和感を感じるのとほぼ同時に、患者よりもきわどい医師の異常性が描かれる。

中盤、物語はSF風になり、患者と医師はタイム・マシンを使い過去へ行く。未来を変えることである野望を叶えようとするが、ふたりには思わぬ事態が待ち受けていた。

最後の患者の一言に、物語のすべてが表れている。

 

小松左京「くだんのはは」

戦時中の神戸。空襲で家が焼けてしまった少年は、昔雇っていた女中が務める邸宅に預けられる。女主人がとりしきる邸で、少年は恐ろしいものを目にする。時は巡り、少年は大人になるが…。

「くだん」とは何なのか、主人公を取り囲む世界は幻想なのか現実なのか。

ようやく気づいた時、読者はすでに薄暗い闇の中に放り込まれてしまっている。

 

白石一郎「庖丁ざむらい」

ここからは時代劇ものが2作続く。1作目にあたる本編は、食にこだわり自ら料理をする一風変わった武士の物語。彼が、他の武士を招き入れ屋敷で食事をふりまったとき、食中毒が起こる。

全体を通し、主人公の武士の痛快とも言えるほどのマイペースさが描かれている。人の幸不幸は客観的には判断できないものなのだ。

 

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隆慶一郎「破行の剣」

時代もの2作目にして、この短編集で私がいちばん好きな小説だ。「庖丁ざむらい」と同じように主人公は武士だが、前作と異なり、シリアスな雰囲気がただよう。

時は戦国、将来有望な武士であった若き主人公は、戦で満身創痍となる。不運は続き理不尽な目にも遭うが、主人公は決して短絡的に物事を解決しようとはしない。運命にも抗わない。

本当の強さとは何なのか。作者の意図はわからないが、私は本作の主題はそれだと感じた。

 

久坂部羊「シリコン」

生まれたときから不幸な目にばかり遭うヒロイン。それでも希望を失わず豊胸手術で人生を変えようとするが、まさかの手術失敗。その後、ようやく自分を救ってくれる医師に出会うが…。

何も悪いことをしていないヒロインを襲う運命に腹が立つかも知れない。しかし、さわやかな読後感が待っているので、耐えて最後まで読んで欲しい。。

 

・藤田宣水「特殊治療」

幻想的で不気味なホラー。患者を前に、医師は研修医時代の話をし始める。人と話すのが苦手な医師は、高嶺の花のような女医に恋をした。しかしその恋は思わぬ方向へ向かっていく。

「それはそれで幸せの一つ」と感じても良いし、気色の悪さに最後まで身震いしても良い。読む人によって悲劇にも喜劇にもなりうる小説。

 

遠藤周作「共犯者」

夫にときめいたことが一度もないという主婦が主人公。胃の病気をした夫は入院し、ルックスの良い同僚が見舞いに来る。そこから主婦の歯車が狂い始める…と言うと昼ドラのような物語を予想してしまうが、作者が遠藤周作なのでもちろん陳腐な展開とは無縁である。

予定調和で事を運ばせないのは、さすが遠藤周作である。

 

馳星周「長い夜」

日本で違法就労をしている、東南アジア出身の売春婦が重い病気にかかった。その面倒をいやいやながらも見てしまう日本人女性が主人公。

これは長編小説の一つの章だったのだろうか。序盤に起こることがすべて唐突で、漫才で言うところのツカミがうまくいっていないようにも感じられる。

内容を吟味すると、著者は社会風刺をしたかったのだということがわかるが、短編には適さない内容のように感じた。

 

氷室冴子「病は気から」

ちょっとしたことで重い病気なのではないかと疑ってしまう心配性の主人公(恐らく著者)。

他の短編とは異なりギャグテイストの自伝的小説だ。

作者はもう亡くなっている。その事実を知った後読み返すと、感想がまったく異なるものになる。恐らく読者のみが味わう、作者も意図していなかった部分だろう。

 

三島由紀夫「怪物」

この短編集はどうやって小説の順序を決めたのだろうか、と三島の「怪物」と読んでから改めて思った。氷室冴子の軽いタッチの自伝的小説から、三島の重厚感のある世界へ急に突入する。

若い頃から残虐で自己中心的だった主人公が老人となり倒れ、意思表示もできない状態になり介護される。恐らく周囲の人々に悪意はない。だが、主人公の考えや希望は伝わらず、因果応報という言葉では言い切れないほどの辛い目に遭う。だが今まで彼の残虐さを知っている読者は、同情できない。

「ほんとうに周囲の人たち、悪意がなかったのかな」

ふと疑問に感じ始めた終盤、突然物語は速度を増し唐突に幕がおりる。

読者の想像の余地を残す三島は、最後の一行が決まるまでは小説を書き始めない作家として知られている。すべては三島の中では、仕組まれていたことなのだ。

 

渡辺淳一「薔薇連想」

解説で最も絶賛されている小説。梅毒に冒された美しい女性が、性行為によって周囲の男たちに感染させていく物語だ。

ロマンチシズムと女性への幻想が強い。男性の作者でしかこのヒロインは描けないだろう。

 

人によってどの小説が好きか変わってくるのがアンソロジーの面白さ。「患者」というテーマでここまで風味の異なる短編小説が味わえるとは思っていなかった。

読書会をして、皆さんに「あなたはどれが好みに合いましたか?」と聞いてみたい。

 

 

もう二度と読み返せない傑作14編 『他人事』平山夢明

心身が痛めつけられるような描写に救いのない結末…好みがはっきりと分かれる短編集だ。

怖い小説が好きな人に限定して「この中でどれが好き?」と聞いたとしても、ばらばらの答えが返ってくるはず。

タイプの違う残酷な小説がひしめきあっている。

 

 

 

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『他人事』

表題作。タイトルどおりに物語が進んでいく。

事故に遭った男女と子供。子どもは序盤から瀕死の状態だ。そこへ通りかかる男。助けてもらえると思ったのもつかの間、話がまったく通じず状況は悪化していく。

サイコパスを描いたホラーかと思いきや、それ以上の絶望感が最後に用意されている。

きっと物語の終焉では、主人公の周囲は静まり返っているのだろう。

 

『倅解体』

ニートで恐らく犯罪者でもある息子をもった夫婦。夫の視点から物語は語られる。

序盤、数十年前の妻の難産を振り返る際の描写があまりにも生々しく、読者が出産経験のない女性や男性であれば、それだけで傷を残す。

心を休める間もなく話は進み、「あれ?異常なのは息子だけ?」という疑問は、終盤思いもしない方向で解明される。

体まで痛くなる、取り扱い注意の小説。

 

『たったひとくちで…』

最初の2作とは異なるテイスト。娘を誘拐された女性に誘拐犯は自分の悲しい過去を語り、あるものを食べさせる。

中盤でラストの予想がつくが目が離せない。「これで終わりでいいの?ほんとうに?」と作者に問いかけたくなる。勧善懲悪とは無縁の世界が、読者の目の前に広がる。

 

『おふくろと歯車』

青春もの。タイトルがどこに結びついていくのか、意識しながら読んで欲しい。

「家族は父親のサンドバックです」

そう公言する養父から凄惨な虐待を受けている少女と、母親が新興宗教にのめりこんでいる少年の逃避行。

少女が少年に投げかける一言に救いが見出せるような気がしつつも、その前の虐待描写のせいでその救いすら消えてしまう。子どもは親を選べない。

 

『仔猫と天然ガス

これまで読んだすべてのものの中で、後味が悪い小説ナンバーワンにランクインしてしまった。

身体障害を持ち、孤独さの中にもささやかな幸せを感じながら生きる40代女性に、理不尽極まりない不幸が襲い掛かる。

暴力描写がこれでもかとグロテスクに描かれると、その後に救いが待っているのかと反射的に思ってしまう。しかし救いは一切ない。暴力が終わった後は淡々と物語も幕を閉じる。

時間があって、心に余裕があるときしか読めないだろう。

 

『定年忌』

直前の短編が映画ファニーゲームのような内容だったので、その次の短編ぐらいは残酷な描写が和らいでいるかなと思ったが甘かった。

定年後の老人に何をしてもいい社会。年配の人がひどい仕打ちを受け続けるのは読んでいるほうも辛いだろう。最後の数行で、耐えられず吐き気を催すかも知れない。

それでも前作の衝撃は超えられなかった。どれだけえげつないんだ「仔猫と天然ガス

 

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『恐怖症召喚』

虐待を受けて育ち、暴力団絡みの仕事をしている男と、「恐怖症」という超能力をもった少女の話。この短編集の中で、唯一、小さな希望が見出せた小説だった。

とはいえグロテスクな暴力シーンはたくさんある。他の小説と同様にとても短いが、内容がまとまっていて、映画化できるとしたらこの小説だけかも知れない。R指定は確実。

 

『伝書箱』

猫が人の指をくわえてもってくる。若いヒロインが、ストーカーをしていた男のことを思い出しながらそれを見つめる。

得体の知れないものが確実に近くにあるのに、それが何かわからなくて、読者は主人公とともにどんどん追い詰められていく。ところが、最後の一文で世界はひっくりかえってしまった。

 

『しょっぱいBBQ』

少し変わってはいるが、純粋に幸せになることを願う家族が初めてのBBQをする。穏やかなひと時になるはずが、少女の遺体を見つけたことで、突如として家族は理不尽な恐怖に直面する。

これもファニーゲーム的展開になると思いきや、最後、「そんなのってあり…?」とげっそりするほど哀しい結末を迎える。

楽しい時間を過ごしたかっただけなのにね。

 

『れざれはおそろしい』

ひとりの教師のもとに一通の手紙が届く。そこには自殺をほのめかす内容が書かれていた。

業務日誌、議事録、メモ、手紙…さまざまなものを織り交ぜた形で最後まで展開し、暴力描写は一切ない。

何が待ち受けているのか、手紙を出したのは誰なのか…すべては無邪気にすら思える完全な「悪」の思うつぼだった。

 

『クレイジーハニー』

SFとブラックジョークとホラーが混在したような印象の小説。タッチがとても軽い。近未来を描いているようで不気味でもある。

 

ダーウィンとべとなむの西瓜』

近代アメリカが舞台…と思いきや、思わぬところで日本人も絡んできた。

会社をクビになるのを避けるため、死刑執行バイトを引き受けた貧しい主人公。家族を養っているがゆえのやむをえない判断で、悪人ではない。

悪人ではないからこそ、物語は悲劇になる。最悪の結末は「死」だけではない。

 

人間失格

自殺しようとしている女に、これまた人生に絶望している男が声をかけ、救いの手をさしのべるというベタな展開が、終盤になって突然暗転する。

タイトルを見て、納得した。

 

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『虎の肉球は消音器』

若いころから仲の良い三人の男たち。貧しくても、ささやかな幸せを感じられる人生を送る…はずだった。

いちばん成功したと思われていた男には道半ばで夢が潰え、人生のものがなしさを感じさせる雰囲気が物語を覆い始める。

もちろん、それだけではこの残酷な短編集を締めくくれない。苦労を乗り越え幸せの絶頂にあった男にも作者は容赦ない結末を用意している。

最後の二行の寂寥感が切なくも恐ろしい。タイトルが秀逸。

 

史上最悪の後味と呼ばれている、京極夏彦の『厭な小説』を間違いなく抜いた。もう二度と読み返せないだろう。

 

 

 

若林理央 ポートフォリオ【これまでの執筆記事】

 

都内在住のフリーライター 若林理央です。

 

現在の主な執筆媒体

WEB 70seeds、LabBase、AM、UMU、CRAZY STUDY

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(CRAZY STUDYは「わかりお」、月刊留学生は「梶川理央」名義)

取材記事(企業取材含む)、エッセイ、書評を中心に執筆。

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 <ライター経歴>

2012年~紙媒体を中心に執筆開始。

現在はWEB媒体に移行し、各メディアの企画・取材・ディレクションにも携わりながら活動中。

 

ポートフォリオ

「次の70年になにを残す?」Webメディア 70seeds

 

【2019年12月スマートニュースに掲載されました】

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umumedia.j

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「生まれ変わった韓国文化院」

 
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ハリウッド大学院大学の魅力とは?」
 
行政書士 インタビュー
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エッセイ

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書評

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<その他経歴> 

大阪生まれ大阪育ち。都内(23区内)在住。

神戸女学院大学文学部卒業。

幼少期に両親の離婚・母の再婚、阪神大震災場面緘黙症などを経験し、その経験をもとに10代からエッセイや小説の執筆をはじめる。

学生時代はフランス文学と日本文学を比較。ご当地アイドルだったこともある。

大学卒業後、家電メーカーで役員秘書として勤務した後上京し、結婚するが二年で離婚。

日本語教師イベントコンパニオン、ナレーター/MCをしながら2013年よりライターとしても活動を開始。

2018年、シェアハウスで知り合った5歳年下の現夫と再婚。

現在はライターと編集者、日本語教師をしている。

趣味は読書、熊の生態研究、ミュージカル鑑賞など。

 

 

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